
資料1「サシバのすめる森づくり」パネル
資料2「サシバの全国繁殖状況調査結果速報」
参考「国際サシバサミット2021」
サシバとは
サシバは、日本の東北地方以南で繁殖をする中型のタカの仲間です。南西諸島から東南アジアで冬を越し、繁殖のために日本に渡来する夏鳥で、特に秋の渡りの時期には大きな渡りの群れが日本各地で観察されます。
サシバは日本の里山環境において、ごく普通に見られていたタカですが、2006年の環境省のレッドリスト改定で絶滅危惧Ⅱ類に選定されるなど、急激な減少が心配されています。(公財)日本野鳥の会などが2007年に行ったサシバの全国繁殖状況についてのアンケート調査では、東北地方、九州などの一部は変化がないという回答があったものの、愛知県を含めほかの地域では減少したとの結果がほとんどでした。(日本野鳥の会他 2008)
豊田市自然観察の森とその周辺でも、サシバの繁殖は2004年を最後に確認されていませんでした。
サシバの好む環境
サシバの行動圏は約100~200haで、水田と森林の接する長さが長い環境を好むことが知られています。アカマツやスギ、ヒノキなどの針葉樹林やそれらと落葉樹の混合林などに巣を作り、水田や畑、湿地などの開けた場所で狩りを行います。ヘビやトカゲなどの爬虫類、カエル類、ネズミ類、小型の鳥類や昆虫類など、多くの小動物を餌としています。
渡来直後から育雛の初期頃までは谷津田(谷地にある田んぼ)を採食地として頻繁に利用し、その後、 育雛中期(6月中旬)から巣立期(7月上旬)を経て秋の渡りが始まるまでは、採食地を森林へと移行し、バッタ類、ガの幼虫などの昆虫類の採食割合が増加します。
豊田市の谷津環境は規模が小さく、いくつかの谷津田をまたぐかたちで利用しています。地域が変わるとサシバの谷津田の利用にも変化があるようです。


サシバのすめる森づくり
◆豊田市自然観察の森と保全目標種
豊田市自然観察の森の周辺には、良好な里山環境が広がっています。ここを守るために豊田市は、地主と賃貸契約を結び保全する事業を、2003年度からスタートしました。124.5haの面積のうち、約90%の面積で地主と協定を結び、もともとの豊田市自然観察の森の面積28.8haとあわせて153.3haが管理地域となりました。
この事業に伴う里山保全計画のため、まずは鳥類をはじめとする生物相の調査を行い、その中から保全目標種を決めました。鳥類では、オオタカ、ハチクマなども記録されましたが、カエルやヘビ、昆虫類など多くの小動物をエサとし、これらの生き物が暮らす豊かな里山環境がなければ生息できないサシバを保全目標種と定めました。
◆サシバのすめる森づくり
キャッチフレーズは、「サシバのすめる森づくり」です。
2004年に豊田市自然観察の森周辺地域でつがいと思われる2羽を観察しました。サシバは「ピックイー」と独特の大きな声で鳴くのですが、その時も声を聞くことができました。その場所の多くは休耕田になっていましたが、水田が一部残っており、繁殖をしていたようです。ところが翌年訪れたときは、その水田は放棄され水はなく、何度か観察に行きましたが、一度もサシバを見ることができませんでした。
そこで、サシバの餌であるカエルやヘビを増やすために地主さんの了解を得て、休耕田に水を張りカエルの産卵場所作りを始めました。2004年度は、ヨシの湿地2,183㎡、2005年度は新池周辺休耕田3,148㎡とカエルの谷休耕田2,403㎡、2006年度はカエルの谷休耕田に2,497㎡の水張り休耕田を追加し、2009年度には古瀬間の水田地帯の休耕田2,700㎡加え、合計12,931㎡整備しました。
また、サシバの保全には、人工林の間伐等生物多様性の高い森にすることが大切です。自然観察の森では、今までも人工林の間伐などをしてきましたが、2008年11月には、かつてサシバが繁殖していた谷でサシバの餌環境の改善を目的にヒノキ林6429平方メートルの間伐を行いました。
その結果、2006年4月にはマムシを食べていた個体が、同年の6月と7月にもサシバの姿が数回観察されました。2005年に一度も観察されなかったサシバが、休耕田の環境整備で復活したようです。ただし、狩り場として一部利用しているだけのようで営巣確認はできませんでした。

休耕田の草刈り
また、水張り水田によるサシバの餌量の変化を知る指標のひとつとして、ニホンアカガエルの卵塊を数える調査も行っています。 卵塊数の合計は、2004年は727個、2005年は645個、2006年は1,223個、2007年は2,777個、2008年は1,528個、2009年は3,404個となり、増加傾向がみられました。ここ数年のカウントでは、1,300個から3,000個の間で推移しています。(2021年現在)
なお、カエル類の卵塊調査をはじめサシバに関する調査は、名城大学の 橋本啓史助教を中心に行い、岩手大学の東淳樹氏やNPO法人バードリサーチの植田睦之氏らには、共同研究者として様々なアドバイス等をいただいています。

サシバの営巣確認
サシバの好む環境
こうした事業を続けた結果、ついに2020年、管理地内の林でサシバの営巣を確認しました。繁殖が一旦途絶えたあと、環境保全活動により再繁殖したことは全国的にも非常に珍しい例です。
最初に営巣を確認したのは6月6日、すでに抱卵期に入っていました。その後、遠距離から無人ビデオ録画を約1~2週間おきに行い、6月21日には孵化してまだ日が浅い2羽のヒナを確認しました。
しかし、もう間もなく巣立ちという頃の7月18日、巣からヒナがいなくなっていました。サシバのヒナはオオタカなどに捕食されることもあることから、こうした天敵に襲われた可能性が考えられます。
残念ながらヒナの巣立ちまでは確認することができませんでしたが、豊田市自然観察の森の自然環境において、今後もサシバが繁殖する可能性があることが示されたと考えます。サシバが再び繁殖することを期待しつつ、里山保全活動を継続・発展させていきます。
